知らなかったじゃ済まない時代。
無知も無謀も「罪」なのだ!


自転車
 警察庁が自転車の交通違反取締を強化する方針を発表した。たかが自転車、されど自転車。最近、自転車の無謀運転などによる事故が急増してるのだ。4月6日に警察庁が発表した資料によると、「自転車利用者による交通違反の指導取締りの強化」という項目の中で「自転車利用者による道路交通法違反について、指導警告活動を従来以上に強力に推進する。特に、酒酔い運転、信号無視、一時不停止、無灯火等の悪質・危険な違反については積極的に検挙するとともに、適正な処分について法務省等関係機関と連携を密にする」と明言されている。

 つまり、飲酒運転や信号無視などの無謀運転には「積極的に」赤切符を適用するってことだ。この「赤切符」ってのが問題。赤切符=罰金刑を受けてしまうことになるため、前科が付く。むむむ、自転車運転してて「前科者」になっちゃうってのは穏やかじゃない。
 
街のみんなはどう思ってるんだろう。

建築会社勤務 Tさん(仮名)え、自転車も飲んで運転しちゃダメなの?
建築会社勤務 Tさん(仮名)

「自転車で検挙? 知らなかった。少しくらい飲んでも自転車置いて帰るわけにいかないもんね。それにしても、いきなり前科ってひどくないですか。せめて、自動車の運転免許みたいに点数制とかにしてほしいな」
映像会社勤務 Mさん(仮名)マナーの悪い自転車って逃げるんですよ!
映像会社勤務 Mさん(仮名)

「私は安全運転だから大丈夫だと思います。むしろ被害者かな。私も自転車通勤なんですけど、1ヶ月ほど前、出会い頭に猛スピードの自転車にぶつかって転んだことがあるんです。膝や腕をかなり擦りむいちゃって。でも、そういう悪いヤツって捨て台詞吐きながら逃げちゃうんですよね。もう踏んだり蹴ったり。どんどん取り締まってほしいです。私の自転車のライト? そうですね、壊れてます。ええっ? 無灯火も犯罪者になっちゃうんですか? だって、ライト付けてもすぐに盗まれるんですよ。困るなぁ」
悪質自転車検挙の流れは
「誰でも犯罪者」社会の象徴だ。


 実際に「いきなり赤切符」ということになるかどうかは、警察庁広報室でも「ケースバイケースなので、各現場の警察官の判断となり、一概には申し上げられません」とまだ曖昧なところはある。とはいえ、例えば「自転車と歩行者の事故」が、平成17年は2576件と、平成7年の4.58倍も起きているのは事実。社会全体のマナーの低下や治安の悪化が厳しい取り締まりにつながり、その結果、日本は犯罪者だらけの国になってしまいかねない。
自転車に限らず、それほどの悪意なくやったことで自分が「犯罪者」になってしまう落とし穴は、サラリーマンの日常生活にゴロゴロしてるのだ。

 次のページでは、その落とし穴を法律の「現場」で数多くの実例を見てきた弁護士の伊藤芳朗氏に聞いてみた。
それくらい大目に見てくれよぉ!
思わぬ「犯罪」実例集!


 多くの企業の顧問弁護士も務めている伊藤氏。普通のサラリーマンが日常生活の中で普通にやってることがトラブルに発展し、「犯罪者」を生み出してしまった実例を教えてくれた。
伊藤芳朗(いとう・よしろう)氏少年Aの告白伊藤芳朗(いとう・よしろう)氏
1960年大阪生まれ。灘高を卒業後、東大在学中に司法試験合格。オウム事件や少年事件、家族問題などに積極的に取り組む知性派弁護士。クレスト法律事務所所長。
■ 著書紹介:『少年Aの告白』(小学館)、『少年法 やわらかめ』(アスペクト)
窃盗罪>10年の以下の懲役
週末、会社のクルマで
彼女と温泉に行った。

彼女と温泉
会社の車を勝手に使っても、週末や公休日でどっちみち会社が使う可能性はないからいいじゃないか。あるいは、元に戻したんだからいいじゃないか。……などと安易に考えがちですが、これは「使用窃盗」と言われる形態の犯罪です。放置自転車を借りて、また元に戻した場合と同じです。窃盗罪は、他人のものを自分の所有物であるかのようにして使用した時点で既遂[きすい:犯罪が完全に実現していること←→未遂]になります。その後戻したというのは「戻さなかったよりは量刑が軽い」というだけで、罪を免れるわけではありません。
 ただし、予め許可を得ておけば何の問題もないわけですから、そういうことはきちんとしておくことが大事です。
詐欺罪>10年以下の懲役
友達と飲んだ領収書を経費で落とした。

 私用で飲んで貰った領収証をあたかも業務上必要があったかのように装って、会社の経理などに提出した時点で詐欺罪の実行行為があり、お金をもらった時点で詐欺罪は既遂となります。なぜなら、会社が単にあなたが友人と飲んだだけだと知ったら、飲み代を払ってくれるはずがないことが明らかだから。実際にトラブルになった事例もあります。
 同じような考え方(積極的にウソを言わなくても詐欺罪が成立する例)として、「つり銭詐欺」があります。これは、お店で品物を買って、店員の勘違いでつり銭を多くもらった場合。明らかに気付いてるのにその場で「多過ぎます」と言わなかったら、店員をだましたことになる、として詐欺罪が成立します。
パワーハラスメント>損害賠償義務が発生
会社の後輩に休日返上で自分の引っ越しを手伝わせた。

 セクハラは女性が被害者となるケースが主流ですが、パワハラの被害者は男女を問いません。上下関係を利用して、他人に義務なきことを(本人が嫌がっているにもかかわらず)押し付けるとパワハラにあたります。さらに「手伝わないと殴るぞ!」などと「害悪の告知」をしてしまうと「強要罪」という犯罪になり、3年以下の懲役となってしまいます。
 また、後輩がその場で「嫌だ」と言わなかったとしても、あとから「怖くて嫌だと言えませんでした」などと言われると、やはりパワハラになってしまいます。後からそういうことを言い出さないような人物を選んでお願いしたほうが良いですね。
酒酔い防止法>1年以下の懲役など
酔っぱらって隣の客に絡んだ

 正式には「酒に酔って公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律」で、拘留または科料または両方、さらに1年以下の懲役となります。長ったらしい法律ですが、酔っ払って道端で「バカヤロー!」と叫んでいたら捕まることがある。「拘留」とは30日未満監獄に入ること。「科料」とは1万円未満の罰金のようなものです。
酒
 また、たとえば東京都では、「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」(これも長ったらしいですね)、俗に言う「迷惑防止条例」があり、酒に酔っていなくても「何人も、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、多数でうろつき、又はたむろして、通行人、入場者、乗客等の公衆に対し、いいがかりをつけ、すごみ、暴力団の威力を示す等不安を覚えさせるような言動をしてはならない」という条文もありますから、ご注意ください。
 ところで、酒酔い防止法には、第2条で「すべて国民は、飲酒を強要する等の悪習を排除し、飲酒についての節度を保つように努めなければならない」と、国民の「義務」が書かれています。みなさんは節度、守れてますか?
軽犯罪法違反>拘留又は科料
自分のクルマに護身用の特殊警棒を積んでいた

 特殊警棒は、軽犯罪法1条2号に言う、「刃物、鉄棒その他他人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具」にあたり、持っているだけで逮捕されることもあります。現に私の依頼者は逮捕されました。
 いやあ、軽犯罪法って読んでみるとすごい。たとえば「生計の途がないのに、働く能力がありながら職業に就く意思を有せず、且つ、一定の住居を持たない者で諸方をうろついたもの」、つまり浮浪者だって、厳密にいえば犯罪者になってしまうのだ。

 次のページでは、痴漢冤罪やWinnyなどサラリーマンが日常生活の中で「犯罪者」になりうる落とし穴を警告しよう。
警告!日常生活に潜む「犯罪」の落とし穴

 たとえば、電車の中でいきなり目の前の女性がアナタの手をつかみ「痴漢です!」と大声を上げたらどうなるか。想像するとゾッとする。
 普通の生活の中に潜む「犯罪」の落とし穴を考えてみる
痴漢 通勤で毎日満員電車。吊革にもつかまれず、揺れに身体を任せていると、突然、目の前の女性が振り返ってアナタの手をつかみ「痴漢です!」と叫ばれた。はい、これであなたは立派な痴漢なのだ。
 立教大学法学部教授で「痴漢えん罪被害者救済ネットワーク」の副代表を務める荒木伸怡氏は「痴漢にされてしまわないようにするには、女性のいるところに近づかない。そして、何があっても駅事務所には行かないということしかない。ネットワークで同じ副代表を務める沖田さんは、中央線で携帯の通話を注意したら、腹いせに痴漢にされてしまったんですからね。拘留されて、不起訴にはなったんだけど、国賠請求は認められなかった」という。堂々と無実を主張したい気もするが「女性が犯人と思われる人を連れて来るわけだから、警察には検挙率100%の事件。たとえば窃盗犯なら手間をかけて調べて大変な思いをしてやっと捕まえる。それに比べると事件解決が楽ですよね。駅事務所で無実を主張したところで、駅のマニュアルはすぐに警察に引き渡すようになってるようだ」というから始末が悪い。
痴漢
 警察では「不起訴にしてやるからとか、起訴しても略式にしてやる、罰金だけにしてやるなどと罪を認めさせようとする。示談金だけで済めばいいじゃないかと」追いつめられる。否認を続ければ拘留され続け、仕事も家庭もボロボロに。
 かといって下手に逃げて捕まると、さらに泥沼って気もするし。
「興奮している女性に対して、まずは身分を証明する名刺でも渡して、私は違う。逃げも隠れもしない。連絡をくれということを伝えてその場は去ることでしょう」と荒木氏。

 ちなみに示談金の相場は「30万円程度」。もしも自分が逮捕されてしまったら無料で相談できる「当番弁護士」を呼んで相談するのがいいと、荒木氏はアドバイスしてくれた。日弁連(日本弁護士連合会)のサイト内に「逮捕されたとき!」というページがあるから、一度目を通しておこう。私選弁護士を依頼してかかる費用は「私選弁護士の報酬として、東京弁護士会の新人研修で教えている金額の目安は、着手金15万円、成功報酬30万円。これは決まっているわけではなく、あくまでも目安ですが」(荒木氏)とのこと。示談金に30万円払うよりは、弁護士に45万円で犯罪者にならなくて済むのなら安い、のかな。
情報漏洩 Winnyとウィルス感染による情報漏洩事件が頻発している。自分は「Winnyなんて使ってない」という人でも、メールをCCで一斉送信して「いろんな人のメールアドレスをばらまいちゃった」くらいの失敗経験はないだろうか。個人情報保護法が気になる昨今、情報漏洩も犯罪になってしまうのだろうか。
『個人情報保護法の落とし穴』の著者で弁護士の田島正広氏に聞いた。
「個人情報保護法が対象にしているのは、6月以内に5000件以上の頭数の個人情報を取り扱う日がある事業者です。個人情報データベース等を事業の用に供している事業者以外の個人は適用対象となりません。また、個人情報が流出した時点で即犯罪ということでもありません。たとえば学校なら文部科学大臣、電気通信事業者なら総務大臣といった事業の担当主務大臣から勧告や命令があり、それに従わなかった時に(行為者や法人等が)処罰されるのです」
 つまり、個人は個人情報を漏らしてもノープロブレム?
「でも、情報漏洩で被害を受けた人から民法上の損害賠償を求められる可能性はあります。会社にも使用者責任があるので連帯してということになるでしょう」と田島氏はいう。会社からも厳罰があるだろうし、やっぱり怖い。ちなみに、単純な住所氏名などの情報流出で「1人当たり1万円の賠償を認めたケース(判例)がいくつかある」(田島氏)。
 最近は、会社と社員(従事者)の契約に、個人情報漏洩の賠償責任が盛り込まれているのも当たり前。「持ち出しが禁止されている情報を、密かに故意に持ち出していた場合は、過失による流出の場合よりも違法性の程度は大きくなる」(田島氏)から、注意が必要だ。
 会社も行政もまだまだ試行錯誤中という印象も強い個人情報保護。サラリーマンとしては、仕事上で知り得た個人情報は決して漏らさず持ち運ばず、地道に個人情報保護法の勉強をするのが最良の自己防衛法ということだ。
田島正広(たじま・まさひろ)氏田島正広(たじま・まさひろ)氏
弁護士。早稲田大学法学部卒。1996年弁護士登録(東京弁護士会)。田島正広法律事務所所長。個人情報・営業秘密などの情報に関する法分野、著作権等の知的財産権、M&Aやコンプライアンス・プログラム策定をはじめとする企業法務など民商法の諸分野に幅広く取り組んでいる。総務省「電気通信事業分野におけるプライバシー情報に関する懇談会」委員などを歴任。
脱法ドラッグ クラブのパーティーで怪しいクスリを「これは合法だから」などとすすめられたことはないだろうか。いわゆる合法ドラッグは、脱法ドラッグとも違法ドラッグとも呼ばれている。合法? 違法? いったいどっちなのだろう。
 厚生労働省監 視指導・麻薬対策課に聞いた。
 脱法ドラッグ(ややこしいのでここでは真ん中とって「脱法」で統一)には、マジックマッシュルーム、フォクシー(Foxy)、ミプティ、7th heven、ラブボールなど様々なものがある。アダルトショップやビデオショップ、インターネット上などで、芳香剤やビデオのヘッドクリーナー等として1000円から6000円程度で売られていることが多い。化学物質の構造が麻薬や覚醒剤とは微妙に異なり、麻薬及び向精神薬取締法や覚醒剤取締法では取締ができない。でも、麻薬同様のトリップ感を味わえるのが脱法ドラッグと呼ばれるものだ。
 かつては人体に影響を及ぼすクスリということで薬事法で取締をしてきたが、最近は売る側、使う側も巧妙になってきている。
脱法ドラッグ
 そこで、厚生労働省では「『脱法ドラッグ対策のあり方に関する検討会』での結論を受けて、まさに今開かれている国会に『薬事法の改正法案』を提出しています」という。この法案が通れば「幻覚作用等のある物質を具体的に指定薬物にして、疑わしいものを取り扱っている業者に対し検査ができる。また検査結果が出るまでその輸入や製造、販売の禁止命令ができる」(厚生労働省)ようになる。
 東京都では独自の条例で脱法ドラッグの取締を強化してきた。たとえば、国の法律で4月22日から麻薬に指定された「MBDB」という合成薬物などを、国に先駆けて知事指定薬物として取り締まってきた。
「2004年7月には、杉並で脱法ドラッグの常習者が同居中の女性を刺殺する事件がありました。脱法ドラッグやゲートウェイドラッグ、つまり薬物の入門編とも呼ばれています。薬物に手を出さないようにするには、教育が大事。なぜ子供達がドラッグや援助交際、リストカットに走るのか。大人は考えてみてほしいですね」と東京都福祉保健局健康安全室薬事監視課担当者。
 新法案の成立を待たずとも、脱法ドラッグは「犯罪者」への入り口なのだ。
思わぬ犯罪者を生み出すのは結局「人間関係」だ!

携帯メール
 調査を進めるうちに、街ですれ違う人がみんな犯罪者に見えてきた。こんなに世知辛い社会になってしまった原因は「他人を見下すことで優越感情を満たす若者が増えたことではないか」と伊藤弁護士(前出)はいう。あくまでも自分本位な価値観で、いとも簡単に犯罪の一線を踏み越えるのだ。
 思わぬ犯罪者への落とし穴から逃れるために「結局のところ、常日頃からいい人間関係を作ることを心がけるしかない。些細なことでも『許さない』人間関係が犯罪者を生み出していく」(伊藤氏)からだ。
 ちなみに、伊藤氏は「最近は携帯のメールが怖い。電話会社のサーバに残っているメールの記録が裁判の証拠として提出されるケースが増えています」と教えてくれた。おっと、あなたの浮気メール。自分の端末で消去したつもりでも、いざとなったらバレバレかも。くわばらくわばら。



構成/寄本好則(三軒茶屋ファクトリー)
撮影/三軒茶屋ファクトリー